「もてなし」の原点発見
---身障者のガイド初体験
史上最多の百二十一の国・地域から約六千七百人の選手、役員が参加したシドニー・パラリンピック。さまざまな障害を持つ選手たちが、それを感じさせないほど果敢に競技に挑む姿は、オリンピックとはまた違った種類の感動を私たちに与えてくれた。この秋、私自身にも、目に障害をもつ方との貴重な出会いがあった。
青空組には、町の社会福祉協議会に勤めているメンバーがいる。その彼が言い出した。「目の不自由な方が、大間を案内してくれるガイドを探してるんです。照会の電話があったんですが、ぜひ青空組で引き受けてみたいんです」
全盲だというその方は、埼玉県から一人でやってくるという。駆け出しボランティア集団である私たち青空組には、体の不自由な方のガイド経験なんてない。かと言って、町には、そのような経験のある人なんていないのだ。やってみるしかねーべさ、という結論に達した。言い出しっぺの彼が、ガイドのリーダーとなった。
しかし、どこをどう案内すればいいのか、どうすれば喜んでもらえるか、手探りでやってみるしかない。そもそも、案内する場所としてすぐに思いつくのは、本州最北端の地だの、展望台だの、まさに「見る」ことで初めて意味のある場所なのだ。そういう視点で、改めてわが町の観光場所を検証してみると、ほとんど「見る」以外の楽しみがないじゃないか、という事実に愕然とした。じゃあ、どうする、ということでリーダーが考えに考えた。そうだ!釣りをやったらどうだろう。
そして迎えた当日。本当にその男性Kさんは、一人でやってきた。30代半ば。旅慣れている様子に、私たちは衝撃を受けた。はじっこが大好きで、沖縄にも一人で行ったんだ、という。車での移動中に見えるものは、できるだけ口で説明してみよう。あとは、青森ヒバの巨木でつくった彫刻の匂いをかいでもらったり、本州最北端の海の水を触ってもらったり。特産のベコ餅や、地元のコンブで作ったラーメンを味わってもらったり。喜んでもらっているか、どこか不安であった。
さて、いよいよ一か八かの釣りである。地元の名人に、釣れるポイントとエサについて伝授してもらい、いざ挑戦。ガイド役の方はさっぱりだが、Kさんの糸には次々にかかった。「釣りなんて初めて!こんな経験ができるなんて!」と、興奮気味に語ってくれた。その後、言い出しっぺリーダーは、釣れた小アジを家に持ち帰り、カリッと唐揚げにしてすぐにKさんの宿泊先に届けたのである。Kさんは、「おいしい、おいしい」と言いながら、あっという間に平らげてくれたらしい。
Kさんと行動を共にし相手の気持ちになってみることで、さまざまな気づきがあった。振り返ってみると、大間に来てよかったと思ってもらいたい一心で、知恵をしぼり、心を尽くした1日だった。
この手作り観光ガイドは、まさに「もてなし」の原点ではなかったかと思うのだ。確かにちゃんとした観光地には、組織化されたガイドがいるが、一定の場所を説明して回る形式的なものに止まっている。いろんな地域で、ボランティアガイドの試みも始まっている。私たちは、まだまだ未整備の小さな町村だからこそできること、型にはまらない本当の「もてなし」の観光案内の可能性を模索してみてもいいのではないか。それは観光の枠を超えて、「交流」へと発展する類のものかも知れない。
Kさんは、目の不自由な人がもっと旅行に出かけられるように、ガイドブックを作るつもりだと言っていた。障害をもつ人々にも、ひとりで自由に旅行を楽しむ道が、少しずつでも開かれていってほしいと思う。迎える側の私たちは、このような出会いを、助ける人、助けられる人という意識ではなく、互いに新たな発見や感動を与えあえる、貴重な接点としてとらえたい。そういう発想に立てれば、迎える地域も、私たちの心も、もっとやさしく豊かになれるのではないだろうか。