知恵と自然
都会のリーマン生活に戻っても、私は、
大間でのゲンさんとの出会いを忘れられずにいた。
そんな時、マグロの形をしたヒバ板が、ゲンさんから送られて来た。
マグロメールというハガキらしい。
そこには新たなメッセージが!「元気か、今度ノナカゴに連れてってやるして、是非来い。」
と書かれてある。
それは篭(カゴ)を使った漁?
この時点では、何を獲るのかは解らなかった。
やっとの休暇で、私はゴールデンウィークも後半にさしかかる頃、
大間に到着した。ゲンさんが、フェリーターミナルまで、
軽トラックで迎えに来てくれ、そのまま御自宅にお世話になる。
ゲンさん一家の歓待を受けながら、ノナカゴの事を聞いてみる。
「ノナは、他じゃウニっていってな、ここで主に獲るのは
キタムラサキっていうノナだのさ」
晩酌が利いた加減でゲンさんは、嬉しさに満ちているようだ。
私も生干イカを肴に左党になる。
ゲンさんは「ちょっと待ってろ」と立ち去ったかと思ったら、
何かを手に戻った。
「これがノナカゴだのさ」
太い針金を輪にしたものに、アミを張る。
そして外周の3ケ所からロープを取って、バランスをとる。
まぁ、真ん丸のアミで出来た凧のようなもんじゃ!
そこにエバ(餌)になる海草を付ける為に
輪ゴムのバンドを付けてる。これを一本の綱にたくさんつけるのさ。
規定は5百枚以内じゃが、ワシの船は小さいから3百枚程。
これを両端に重石をつけて海底に沈めると、ウニが乗っかるのさ。ちょっと説明に合わせ頭の中に想像を描いてみる。
両端には、浮き玉に竿と旗を付けて、自分の物だと分かるよう
屋号や目印をつける。潮の流れが速いと、
カゴは凧の様になびいちまう。そうなったら、
海底を這うウニは入ってはくれねぇ。
だからカゴを重くするのさ。ほいでも、船に数多く積むには、
軽いほうがいいして、悩みだな。
と、一通りの説明も、私は「ウニは海草を食べてるんですか?」と、
驚きを隠せなかった。
ゲンさんの説明では、ウニは悪食で、
海底にある海草やコケ類までも食べ尽くすのだという。
その昔はウニの価値がなかった為、コンブの害虫として
駆除していたらしい。その時には大量のウニを浜で、
全て踏み潰したという、なんとも、もったいない話。
今では、岩盤を露出させるウニのお陰で、新たな海草が芽吹き、
ウニとコンブの共存が叫ばれる。
そして良質の津軽海峡にしかない
マコンブを主食とするから大間のウニは美味しい
のだと、ゲンさんは豪語する。ゲンさんの話は、まだまだ続く。
まだ小さい頃から、沖に出て、
ウニを親父さんに投げつけられて育った事。
波の高さ5mでも出漁した事があるなど、
その世界を語るゲンさんは輝いている。
「明日は朝4:00に起こしてやるから、ゆっくり寝さまい。」と、
ゲンさん。私も、楽しい語らいに「おやすみなさい」をした。
ちょっと興奮して眠れず、翌朝を想い描くうちに、
いつの間にかゲンさんの声がする。
「おい!起きろ!いくぞ!」と。