出漁!ノナカゴへ!


ゲンさんの声に、ビックリして飛び起きた。
朝4:00とは信じられないほど僅かな睡眠時間だと実感。
着替えもあるから、そのまま居間に来いと言われ、
行くと、既にストーブが焚かれ、ご飯の用意までが
されてある。早朝は5月とはいえ、かなり冷え込む。
気温5度ほどだという。
ゲンさんの用意してくれた暖房着をストーブであぶり、
そそくさと、着込む。奥さんが用意してくれた、あったかいご飯も、
寝ぼけて喉を通らない。
まだ4時30分。奥さんもカッパを着込む。
それを見て、「奥さんも一緒に行くんですか?」と。
「ひとりだば、大変だして、かだ(荷担)って行くのよぉー」
という奥さん。その潮焼けの黒い顔が、
女性としての美しさとは反比例しないものだと感じた。
船に到着すると、港は人だかり。それがウニ漁を控えた漁師である
と教えられる。
「この漁は海の場所ごとに指揮する漁師の代表がいて、
指示があるまでは待機すのさ。今は海区が6つ出てて、
全部で200隻くらいだろう。」

そうしているうちに、

「ピ〜ンポ〜ンパンポーーン!
只今より、ウニカゴを・・・・・」

と放送されたかと思う間もなく、
数多くの漁船のエンジン音にかき消されてしまう。
一度にたくさんの船が、港を出て行く。黒煙をあげて。

 

 

沖に出ると、紫色した大間の朝が、
モヤがかかったように広がっている。
しかし、寒い!海上は吹きさらしの上、
ゲンさんの話しだと海の中はまだ冬だという。
「こんなに着込まなくても・・・」と思った事を反省した。
漁場に着かないうちに、歯はガタガタ震え、鼻水が出てくる。
手はポケットから出してはいられない。
見かねた奥さんが、ホットの缶コーヒーを私にくれた。

船が速度を落とす。海の上にはたくさんの旗が浮かんでいる。
無線で
「揚げでもいいどー!!」と野太い声が届く。
ゲンさんはドラム(巻き上げ機)にロープを掛けた。

そのうちにカゴが揚がり始める。
1.5m間隔程度で、次々と巻き上げ、船を時折、前進させる。
エサが無くなっているものは、奥さんが即座に交換する。

カゴを揚げながらゲンさんは、
「やっぱり、お前さんは運がいい!
こんないい凪なんてなかなか無い」と言った。
大間では2月から桜の便りが届くまでは、ほとんどが荒天続きだという。
つい先立っても、船の転覆事故があったばかりと、
奥さんまでが真剣な顔。本州で最も遅い大間の桜は5月の中旬らしい。
しかし、今日とて、結構な波。船は揺れている。
寝不足と寒さで酔いそうになる。

 

ゲンさんは、黙々とカゴを揚げ続ける。
ウニは入っていない。
「なかなか獲れませんね?」と思い切って聞いてみた。
「海の底に根があるのさ、盛り上がった岩盤の尾根が
函館の方へ向けて並んでで、それにクロスして潮が流れでる・・・、
潮の流れに合わせて仕掛けを投入しないと、
他の船と仕掛けが絡んでしまうから
仕掛けもノナの居る場所に交差してるのさ。
そこに差し掛かれば、今、ノナが入ってくる」

なるほど・・・よく海を知っている。
大間の漁師の知恵には頭が下がる。
その昔、どこかの漁師達が、大間のウニカゴ漁を学びたいと
正式に申し込み、帰ってから実施した。
そしたら3年でウニは獲れなくなったという話しをゲンさんから聞いた。
「平坦な海底でノナカゴをやったら、ノナは絶滅する。」
ゲンさんは昨晩、そう言った。
やはり大間の豊かな海の恩恵が漁師の知恵を支えている。

 

 

そうしているうちに、ウニが獲れだした。
ゲンさんは水色の入れ物にウニをカゴから落としている。
「たくさん獲れると網目にノナが引っかかって、
振り落とすのに大変なのさ」と、笑みをこぼす奥さん。
それはまるで、作物の収穫を喜ぶようでもあった。


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