ノナカゴ差込!


約1時間ほどで、全てのカゴを上げ終えた。
ゲンさんは休む間もなく、カゴを並べ替えている。
「何をしてるんですか?」
「この後で、このカゴを海に入れるして、その準備をしてらのさ」
「はぁ・・・??」
「重石を投入してな、船を走らせると、このナガシという、
左舷に取り付けた、カゴの通り道を通って、
次々と1枚づつ海にポンポンと、カゴが海に入ってく。
その時、ロープが絡んでると、全てが水の泡になりかねんから、
丹念に並べ替えとチェックを忘れないようにしてらのさ」
「ナガシって、このスベリ台みたいな・・・」
「そう、これ!全部わしが作った!」

奥さんは「全部の船が、カゴを揚げ終わるまで、まだ時間があるから」
と言って、獲れたウニを選別し始めた。
小さいウニは海に戻すのだという。
ゲンさんも、奥さんも、少しも休んではいない。

 

無線がガンガン騒いでいる。どんどん船が並び出す。
20隻、30隻とスタートラインに並ぶように。
そして、
「差してもいいどぉー!」と無線が入ると、
一斉にボンデン、そして重石を投入。
黒い煙と轟音を吐き出す船の一団が走り出す。
ここで、やっと理解した。船が並んで投入すると、
互いの仕掛け同士が平行で、絡まないのだ。
だから、他の船を待って、並んで行うのである。
隣りの船に飛び移れそうな距離どころか、
船同士が時折、ぶつかり合う。
鈍い衝撃と、ギシギシと船がきしむ。
それでも速度を落とすことなく、突き進む。
後で聞いたが、大型船に挟まれると、
船を止めても走っていられると笑ったゲンさん。

少し慣れたら、これが面白い!!
1時間かけて揚げたカゴが、次々と簡単に海へ落ちていく。  
これを、明日また、揚げるとウニが入っているのだ。
余程の時化でもない限り、3月から5月いっぱいまでは、
毎日、この繰り返しだという。だから雪の日もある。
雨の日もある。それでも漁に出るのだ。
朝方1時間半ほどの簡単な漁だと思われがちだが、
なかなか、大変で、凄まじい。
半ば喧嘩同然にやりとりする漁師もいる。

 

ウニカゴを投入し終えた船が次々と、港に向けて走り出す。
しかも、ほとんど全速力である。その隻数の勇壮さに感動していたが、
ゲンさんは言った。
「あんなに飛ばすと、船の波で、小型船が危険だから、
注意しないと大変な事故になる時がある」
なるほど「カッコイイ!」などと、思った私が馬鹿だった。
そういいつつも、ゲンさんも結構スピードを出している。
そんなに急がなくてもと思ったが・・・・

 

そこはウニのエサとなるホンダワラを獲る船が、ひしめいていた。
僅かな、その場所に早く到着する為に全速で走ったのだ。
既に獲っている船もある。
これをゴムバンドに装着しやすいよう、後で束ねるのだ。

漁に出たついでに、エサを獲る。わずか10分ほどである。
それはウニの鮮度が高いうちに出荷を
する為にも、時間をかけてはいられないのだ。

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